われらアグリ応援団 第14回「春の四重奏」

2022.05.11

先人の思い引き継ぐ

 

 2019年に父を亡くして最初の春に、母を連れて朝日町の舟川べりを歩いた。川のせせらぎを耳にしながら、咲き誇る桜をまぶしく感じたことを思い出す。
 ただ土手を歩くだけでも気分が華やぐのだが、仮設の席でバタバタ茶をいただいた後、少し離れて眺めた景色が今も深く心に残っている。音楽にたとえて「春の四重奏」と呼ばれ、残雪の峰々、桜並木、そして菜の花とチューリップが織りなす美に見とれた。
 富山の自然が生んだ遠景は、厳しい冬を越した人々への贈り物と言えるだろう。だが、それだけではこの景色は生まれない。
 農事組合法人の「ふながわ」が菜の花を育て、有限会社の「チュリストやまざき」が手塩にかけてチューリップをはぐくむ。毎年大変なご苦労をなさって咲きそろうタイミングを桜に合わせるのだが、ままならない年もあるという。その事実が、いかに難しい仕事なのかを物語っているし、だからこそ幻の四重奏、奇跡の四重奏なのである。
 この春、農業農村整備優良地区コンクールの最高賞に2団体が選ばれ、ふながわの由井久也組合長とチュリストやまざきの山崎修二代表に取材した。別々に話を聞いたにもかかわらず、お二人からそれぞれ思いもかけない言葉が返ってきた。
それは「先人への感謝」である。
 いわく、先人たちが明治期から散居村だったこの地を整え、宅地を集めるなど広々とした空間を生んでくれた。耕地整理の先駆けであり、そのDNAは今に引き継がれている。桜並木にも地域の人々が大切に守ってきた歴史がある。「先人が築いた財産を後世に伝えるのが、わたしたちの使命だと思っている」と言う。
 彩りだけではない。「春の四重奏」は人々の思いが重なって奏でられる。そして訪れる人の心もまた、そこにとけこんでいく。

  • ▲舟川の堤防を彩る桜並木
  • ▲残雪の山々を背景に桜、菜の花、チューリップが咲く「春の四重奏」

 

 

〇執筆者

本田光信(ほんだ・みつのぶ) 1966年生まれ。平成の幕開けとともに一般紙記者になり、報道・編集の現場で仕事をしてきた。デスクなどを務めて退職し、フリーとして活動。2021年から日本農業新聞富山通信部ライター。著書や共同執筆による出版多数。「文藝春秋」、日本新聞協会「新聞研究」などに執筆歴あり。