われらアグリ応援団 第20回「若さの特権」

2022.08.26

思いっきりやろう

 

 学生だった1980年代のこと。所属していたマーチングバンドが、競馬場のイベントに出演することになった。
 主催者のリクエストはこうだ。
 「まずは、ふた手に分かれろ。競馬場の両端から演奏をスタートし、馬が走るコースを歩いて真ん中あたりで合流してくれ」
 そんな無茶な、と思った。音は秒速340メートルで進む。それはつまり、340メートル離れたところで演奏した音がこちらに届くまで、1秒もかかるということを意味する。
 「伴奏が1秒ずれるカラオケで、あなたは歌えるのか」
 そう言い返したかったが、予定していた海外ツアーの渡航費に、競馬場の出演料を当てこんでいた。やるしかないのである。
 このミッションを成し遂げるためにみんなで知恵を絞り、練習場に寝袋を持ち込み、風呂にも入らず秘密の特訓を重ねた。3カ月後に本番を乗り切り、本気でやれば「なんとかなることもある」と知ったのだった。
 北陸3県で開催する「日本学校農業クラブ全国大会」が10月下旬に迫っている。
 先日は砺波市で、県大会を兼ねて開かれた平板測量競技のリハーサル大会を取材した。最優秀賞を獲得した入善高校や優秀賞の中央農業高校をはじめ、各校の選手たちは日ごろ磨いた技をいかんなく発揮していた。
 運営に携わる生徒も真剣そのものだ。会場アナウンスを務める南砺福野高校の3年生、高畑柚那さんは「初めての大きな舞台。臨機応変の対応が求められるので緊張しました。本番も頑張りたい」と笑みを見せ、同級生で実施委員長の今井小梅さんは「選手が全力を尽くせる大会にしたい」と意気込んだ。
 全国大会を地元で開催できるタイミングに居合わせた彼らは、とても幸運だ。そして本番は、ものすごく大変だろう。
 だが、仲間たちと力を合わせてそれを乗り切ったとき、きっとなにかが弾けるはず。
 思いっきりやろう。

 

▲ 平板測量競技に臨む中央農業高校の生徒

 


▲平板測量競技のアナウンスを務める南砺福野高校の生徒

 


▲県営球場前で日本学校農業クラブ全国大会をPRする富山県の高校生たち

 


▲切り花を販売して全国大会を紹介する入善高校の生徒

 


▲リンゴジュースを販売して全国大会を紹介する南砺福野高校の生徒

 


▲ 農産加工品を直売して全国大会を紹介する中央農業高校の生徒

 

 

〇執筆者

本田光信(ほんだ・みつのぶ) 1966年生まれ。平成の幕開けとともに一般紙記者になり、報道・編集の現場で仕事をしてきた。デスクなどを務めて退職し、フリーとして活動。2021年から日本農業新聞富山通信部ライター。著書や共同執筆による出版多数。「文藝春秋」、日本新聞協会「新聞研究」などに執筆歴あり。