農家に寄り添う言葉
JA富山中央会の会長、伊藤孝邦さんは、新年からいろんな場に呼ばれている。富山県のJAグループのトップであるから、ただ出席すればよいというわけではない。必ずあいさつを求められる。ご本人はいつもにこやかに、ひょうひょうとした雰囲気で登壇されるが、主催者からはその場をなごませたり、引き締めたりする役割も期待されるので、人知れず大変なご苦労をなさっているはずである。
伊藤さんが最近、さまざまな会合で強く訴えているのが「農家が再生産できる適正な価格の形成」に協力してほしいということだ。飼料や肥料、燃料代がかさむ中、生産者が歯を食いしばり、丹精こめて作っている農畜産物を、適正に評価してもらえないものだろうかという心の叫びのようにも感じる。
私も共感する。
最近、テレビを見ていたら「物価の優等生と言われる卵が値上がりしている」と伝えていた。生産資材の高騰などに加え、高病原性鳥インフルエンザの拡大で、大変なことになっているというニュアンスだった。菓子メーカーや飲食店がどんなに苦労しているか、消費者がいかに頭を悩ませているかを報じていた。
大変なのであろう。
それも分からないではないが、卵はそもそも安すぎる。
私は組織に属さないライターなので、家では朝晩の食事を作り、財布の中身を気にしながら買い物もしている。だが、それでも卵が「ただ同然」でたたき売りされているのを見かけると、こんなことでいいのかと思う。先ほどのニュースに、ほんの少しだけ登場した養鶏業者が「物価の落第生になりたい」と嘆いていた言葉に、むしろ切実な現実を感じた。
別のニュース番組で「物価の優等生と言われる米が値上がりしている」と報じていたのも見たが、この時はさすがに耳を疑い、テレビに向かって悪態をついてしまった。「米は安いし、うまいぞ。今こそみんなで米を食べるときではないか」
いつのまにかテレビ画面と会話をしている自分に気づき、いやになるときがある。
さて、富山中央会の伊藤さんは、あいさつの中で「食料安全保障」の重要性や「国消国産」の大切さも呼び掛けている。地元の農畜産物は、新鮮で輸送コストもかからず、体にも財布にも優しい。どんどん食べて応援してほしい。
▲仕事始めであいさつする伊藤さん
▲ 知事に農業予算の充実を要請する伊藤さん
〇執筆者
本田光信(ほんだ・みつのぶ) 1966年生まれ。平成の幕開けとともに一般紙記者になり、報道・編集の現場で仕事をしてきた。デスクなどを務めて退職し、フリーとして活動。2021年から日本農業新聞富山通信部ライター。著書や共同執筆による出版多数。「文藝春秋」、日本新聞協会「新聞研究」などに執筆歴あり。