われらアグリ応援団 第55回 「令和のコメ騒動」 働きに見合う価格を

われらアグリ応援団 第55回 「令和のコメ騒動」 働きに見合う価格を
○JAライフ富山が、随意契約による政府備蓄米を販売すると聞いて「朝日Aコープ」(朝日町)に向かった。日ごろは惣菜を作って配送している施設なのだが、6月14日からの2日間に限ってコメを販売するという。店先に積まれたコメは、随意契約の2021年産4割と、それより新しい2023年産6割のブレンド米である。整理券を配り始めるのは朝の7時なのに、その3時間前には一番乗りのお客さんがやってきた。関心の高さがうかがえた。
○10キロの袋入りだが、5キロで計算すると2000円ほど。「食味に配慮してブレンドしたはずなのに、ずいぶん思い切った価格にしたな」と感じた。コメをめぐる世の中の雰囲気をなんとかしたいと考えたのだろう。
○お客さんが「最近は何もかもが高いので、本当に助かる」と話していたのが印象に残った。今回の「騒動」では、コメの値段ばかりが注目されがちだが、落ち着いて考えると、われわれ庶民の手取りが物価の上昇に追いついていないことこそが課題なのだと分かる。
○2021年産といえば思い出す。コロナ禍で外食産業が苦しんだあおりを受け、コメの価格は下落していた。「こんな金額じゃ、やっていけない」という生産者の声を何度も聞いた。
○この世はおかしなことばかりである。コロナ禍が収まったかと思えば、ロシアがウクライナへの戦争を引き起こし、輸入に頼る原料や燃料、肥料、飼料、さまざまな資材価格が高騰した。それらを価格に転嫁しようと、世の中のあらゆるものの値段が上がり、大手メーカーの食料品や菓子も一斉に上昇した。そんなあたりまえの流れから、コメの価格は安いまま置き去りにされた感があった。だからこそ富山県JAグループは、国や県などの自治体、議会への要請活動を続けてきたのである。
○コメの価格は、たしかに高くなった。
○しかも、ほかの食品よりも遅れて一気に上昇したため、よけいに目立った。それまでは、小麦が高くなってもコメだけは庶民の味方だと思われていたから、消費者のショックが大きかったのかもしれない。
○しかし、今回の件で、だれかがぼろもうけしたわけではない。
○農家や集荷、卸、小売の事業者はコストの上昇分を転嫁しているだけで、さほどもうかっているようには見えない。そもそも、コメの価格は急騰したとはいえ、30年前の水準に戻っただけである。今のコメ価格は本当に高いのか。高いのであれば「適正水準」とはどんなレベルなのか。だれかが我慢して成り立つような価格は「適正」とは言えないだろう。作り手ひとりひとりの働きに見合った収入があり、農家や流通にかかわる人々が豊かに暮らせることを最大限に考慮した「合理的な価格」が実現することを願ってやまない。
日本農業新聞富山通信部 本田光信
▲政府備蓄米を受け取る消費者(6月14日)